6月に、『あの胸が岬のように遠かった―河野裕子との青春』(永田和宏/新潮社)がドラマ化されました。河野裕子は好きな歌人ですし、ドラマで永田先生を演じる柄本佑は好きな役者なのですごく楽しみにしていたのですが、見終えてがっかり。柄本佑の白髪はドリフのコントみたいで、これで永田先生はご満足なんだろうか? その直後、『家族の歌』の前奏とも言えるこちらの本を図書館で発見。河野裕子が余命宣告を受けて亡くなる前後2年間を、本人と家族が歌とともにエッセイで綴っています。新聞連載だけあって文章量は少なく、それが食い足りない気がする反面、言い募り過ぎない余韻もあって、なかなかよかった。やっぱり『家族の歌』も読んでみたいと思います。 ★p64 君に届きし最後の声となりしことこののち長くわれを救はむ 永田和宏 息がとまったとき、「ゆうこ」と呼んだのだったか、「行くな」と叫んだのだったか。その私の声に応じるかのように、裕子はもう一度だけ息を吸ってくれた。私への最後の思いやり、精いっぱいのいたわりだったのだろう。彼女の耳に最後に届いたのが私の声であったという確信は、これからの私をいろんな場面ですくってくれることになるのだろう。 2022年8月14日 楠本知子